『ハドソン川の奇跡』

 

久しぶりに爽やかな青空が広がる金曜日。

有給消化を促されて仕事がお休みだったので、

気になっていた映画を観に行くことにしました。

(今回は本興行の映画館です。)

 

数年前の冬、ニューヨークのハドソン川に飛行機が不時着し、

乗客全員が生存した航空事故を題材にした映画『ハドソン川の奇跡』。

しかもクリント・イーストウッドが監督したとなれば、

気にならないはずがありません。

 

この事故は、私がカナダで生活している間に起った事件の中でも、

特に強く印象に残っている出来事のひとつでした。

極寒の川に辛うじて残された飛行機の主翼の両側に、

たくさんの乗客が立ちすくんでいる映像は、

今でも鮮明に覚えています。

 

実はその映像よりも驚いたのは、

アルがこのニュースに異常なまでに反応したことでした。

乗客全員の命を救った素晴らしい機長だと称え、

新聞やテレビで報道を追い、事あるごとに話題にするのです。

日頃の彼はアメリか社会やアメリか政府に対して常に批判的だったので、

どうしてこの典型的ともいえるアメリカのヒーローイズムにここまで執着するのか、

私には不思議でなりませんでした。

 

メディアがこぞって報じた「奇跡」と「英雄」ではなく、

「その真実の裏側」を描いたのはクリント・イーストウッド監督らしく、

自らの判断に疑惑がかけられ国家運輸安全委員会の厳しい追及に苦悶しながらも、

40年の自分の仕事に強い誇りを持って対峙する機長の姿は、

これまで伝えられた英雄像を遥かに越えた人間としての深みがありました。

機長の人間性、当時のすべての偶然性が重なり、

あの状況下で全員生還できたことはまさに奇跡だったのだと思います。

 

恐ろしいまでに一気に英雄扱いする社会と、

一方で理不尽なまでに糾弾しようとする社会とを鋭く切り込んで振り返った今、

アルと一緒に「サリー機長は素晴らしい!」と尊敬をもって称えたいところです。

 

ああ、さすがクリント・イーストウッド

味わい深く見応えのある映画でした。

明日の土曜出勤はがんばれそうです。